突然ですがマーケティング戦略にしろ、事業戦略にしろ「市場選定」はどこで戦うかを決めるとても重要な仕事です。

様々な情報を集めて、数字のシミュレーションをして、ようやく見えてきたいくつかの有望な市場。その仮説を検証するために行うのが業界関係者へのインタビューです。

その市場検証のインタビューを設計するとき、「誰に話を聞けばいいのか」で手が止まる方は多いです。

決裁権者か、現場担当者か——どちらを選ぶかによって、得られる情報がまったく変わります。

結論から言えば、どちらも必要です。ただしそれぞれに聞くべきことが違い、順番にも意味があります。この記事ではカスタマージャーニーをベースに、インタビュー設計の考え方を整理します。

なぜ「誰に聞くか」で迷うのか

インタビュー対象の選定で詰まる原因は、「ペインを持っている人」と「意思決定をする人」が別々に存在するビジネスの構造にあります。

toC(個人向け)であれば、課題を持つ人と購入を決める人はほぼ同一人物です。一方でtoBの場合、課題を感じているのは現場担当者で、契約にサインするのは経営層や管理職といったケースがほとんどです。

「どちらが本当の顧客か」という問いに唯一の正解はありません。両者のペインがかみ合ったときに、はじめて商談が成立するからです。

初めての人が詰まりやすいポイント
最初のインタビューをどちらから始めるべきか迷って、結局どちらにも声をかけられないまま時間が過ぎる——というパターンがあります。どちらが先でも構いません。まず1人に話を聞くことが重要です。それだけで見える景色が全然変わってきます。

カスタマージャーニーで考えると整理できる

インタビュー対象を考えるうえで有効なフレームが、カスタマージャーニーです。「誰が何のタイミングで何をするか」を時系列で追うことで、現場と決裁権者それぞれの役割が見えてきます。

カスタマージャーニー

フェーズ主な行動主体止まりやすいポイント
① 課題認識現場担当者業務上のペインを感じ始める。まだ社内では共有されていないことも多い
② ソリューションを知る現場担当者広告・記事・SNSなどで解決策の存在を知る。ここで刺さらないと次に進まない
③ 資料請求・問い合わせ現場担当者切迫感が行動を起こさせる。「なんとなく良さそう」では動かない
④ 商談現場担当者「上に話を通せるか」の判断をここでしている。社内で孤立しやすいフェーズ
⑤ 上申現場担当者→決裁権者最初の関門
現場の熱量だけでは通らない。決裁権者の判断軸(コスト・リスク・ROI)に合っていないと止まる
⑥ 決裁権者が検討決裁権者第二の関門
コスト・リスク判断に加え、「現場の課題が解説されるか、本当に使うか」も重要な軸。現場のペインが伝わっていないと却下される
⑦ 導入決定決裁権者現場と決裁権者、双方の懸念が解消されて初めてここに到達する

このジャーニーを見ると、現場担当者のペインしか理解していない場合、⑤の上申フェーズで止まります。現場が「これを使いたい」と思っていても、決裁権者にとっての「なぜ今・なぜこれか」が答えられなければ稟議は通りません。

逆に、決裁権者のペインしか理解していない場合、⑥の検討フェーズで止まります。コストとROIの説明はできても、「現場が本当に使うのか」という懸念を払拭できなければ、決裁権者はGoを出しません。高いお金を払って導入したのに現場に不評で誰にも使われない——そういったITツールの1つや2つ、みなさんも心当たりがあるのではないでしょうか。決裁権者はそのリスクを肌で知っています。

つまり、どちらかのペインだけしか理解していないと、ジャーニーのどこかで必ず止まります。両者のペインを押さえてこそ、⑦の導入決定まで商談を届けることができます。

意外とどちらかだけで良いと思っている企業は多い
「うちのサービスは決裁権者に刺さればいい」「現場が動けば自然と上に上がる」——そう判断してインタビューを片方だけにしているケースは珍しくありません。
しかし実際には、現場が動いても上申で止まり、決裁権者が乗り気でも「現場が使うか不安」で止まる。どちらも、もう一方のペインへの理解が欠けていたことが原因です。
「両方やるのはコストがかかる」は本当です。ただ、片方しかやらずにリリース後に刺さらないことに気づく方が、はるかにコストは大きくなります。

両方に聞くと「ズレ」も見えてくる

両方にインタビューをすると、もう一つ副産物があります。現場と決裁権者の認識の「ズレ」が見えてくることです。

これはメインの目的ではありませんが、後のメッセージ設計や提案資料づくりで役立ちます。参考までに、よくあるパターンをまとめておきます。

よくあるズレのパターン

現場の声決裁権者の声示唆
「操作が複雑で使いにくい」「ROIが見えないと稟議を通せない」訴求軸を現場向け・決裁者向けで分ける必要がある
「今すぐにでも使いたい」「来期の予算で検討したい」タイミングのミスマッチ。フォローの設計が必要
「部署単位で使えればいい」「全社導入が前提でないと意味がない」スコープの認識差。初期提案の粒度を要検討

片方にしかインタビューしていなければ、このズレには気づきません。両方に話を聞いておくことで、商談設計や提案内容の精度が上がります。

条件によって変わること
中小企業や少人数の組織では、現場担当者と決裁権者が同一人物のケースもあります。その場合は一人のインタビューの中で「現場担当者としての視点」と「経営者としての視点」の両方を引き出す質問設計が必要です。

まとめ:インタビュー設計チェックリスト

インタビューを始める前に、以下を確認しておくと設計がぶれにくくなります。

  • 仮のカスタマージャーニーを描いたか
  • 「解決策」ではなく「課題」を聞く設計になっているか
  • 現場と決裁権者のペインが「かみ合っているか」を確認する問いが入っているか
  • インタビュー後にズレを可視化する方法を決めているか

インタビューは手間がかかります。ただし、ここで両者のペインを正確に把握しておくと、その後のメッセージ設計・広告・営業トークのすべてに使えます。最初に時間をかける価値は十分にあります。