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「ぜひ買いたい」を信じて開業1年で倒産したSaaS起業家の4つの失敗

公開日: 2026-06-26更新日: 2026-06-26
「ぜひ買いたい」を信じて開業1年で倒産したSaaS起業家の4つの失敗

はじめに

売れない理由が、商品の質にあるとは限りません。

「いい商品を作ったのに売れない」「知り合いの経営者には絶賛されたのに、実際に提案したら誰も買ってくれなかった」——そんな壁にぶつかっている個人事業主の方は、実は多いと思います。

先日、お客さんから面白い話を聞きました。そのお客さんの知り合いが、開業からわずか1年で会社をたたんだという話です。BtoB向けの業務効率化SaaSを開発して起業したその方は、リリース前から複数の経営者に「ぜひ買いたい」と言ってもらっていた。なのに、いざ発売すると一件も成約にならなかったというのです。

この話を聞いて、マーケティングの失敗事例として学びがぎゅっと詰まっていると感じました。決して他人事ではなく、個人事業主として商品やサービスを売ろうとしている方なら誰にでも起こりうる罠が、ここには4つ隠れています。この記事では、その4つの失敗を一つずつ解説しながら、「本当に売れる商品」をどう設計するかをお伝えします。

もし今、周りから「いいね」と言われているのに実際の契約にはつながっていない、と感じているなら、一緒に検証方法を見直してみませんか。


「ぜひ買いたい」の言葉を信じて会社を辞めた

その方は会社員時代、経営企画系の部署にいて、経営者とも懇意にしていました。複数の経営者とのコネクションもあった。

あるとき、自分の業務に関する課題を解決するSaaSのアイデアを思いつきます。そのアイデアをパワーポイントにまとめ、コネのある経営者数人にプレゼンしました。反応は上々で、「素晴らしい。実現したらぜひ買いたい」という言葉をもらえました。

「お客さんを確保できた」。そう確信した彼は会社を辞め、エンジニアを雇い、半年かけてプロダクトを開発します。そしていざリリースというタイミングで、あの「ぜひ買いたい」と言ってくれた経営者たちに連絡を入れた。

結果は、一件も成約なし。

その後1年間、必死に営業を続けましたが、期待していた規模の売上には届かず、会社をたたむことになりました。

この話の何が問題だったのか。実はこの失敗には、マーケティングの落とし穴が4つ凝縮されています。

CB Insightsの調査によると、スタートアップが失敗する理由の第1位は「市場にニーズがなかった(No market need)」です。第2位が「資金のランアウト」であることを考えると、資金を使い切る前段階、つまりニーズの見極めこそが事業の生死を分けるといっても過言ではありません。


失敗① パワポへの「感想」をニーズと勘違いした

最初の失敗は、パワーポイントのプレゼンで得た「欲しい」という言葉を、確かなニーズの証拠として受け取ってしまったことです。

よくスティーブ・ジョブズの言葉として引用されるものに、「顧客は、それが目の前に出てくるまで、自分が何を欲しいかわからない」という考え方があります。これはまさにこの失敗を表しています。

パワーポイントのプレゼンというのは、課題があってソリューションがあって「これくらいの料金で」というロジックが通っているだけです。経営者はその場で本気でそれを吟味するわけではありません。論理として成立していれば「それ欲しいね」という感想がつい出てしまう。でも、それはあくまで「感想」です。

本物のニーズ検証には条件があります。実際に商品があること、かつ自分のことを全く知らない人が「これ欲しい」「いくらですか?」と聞いてくるような反応があること。この2つが揃って初めて、強いニーズとして確認できます。プレゼン資料の段階での「欲しい」は、残念ながらそのどちらも満たしていないのです。


失敗② コネのある相手には本音が聞けない

2つ目の失敗は、ニーズ調査の相手がコネのある経営者だったことです。

これは見落とされやすいポイントですが、関係性のある人に「これどう思いますか?」と聞いても、本音は引き出せません。面と向かって「いや、それはいらない」「そんなの誰も買わないよ」と言える人は、よほど親しくない限りなかなかいないからです。むしろ関係性があるほど、相手を傷つけたくない配慮が働いてしまいます。

本当の意味でのニーズ検証をするなら、自分のことを全く知らない見込み客に対して、実物を見せながら反応を確かめる必要があります。コネを活用すること自体は一つの行動としてありえますが、そこで得られた「欲しい」という反応を、ビジネスの根拠にしてはいけませんでした。

この視点は、個人事業主が自分のサービスを設計するときにも直結します。身内や知人にアイデアを聞いてもらって「いいね!」と言われたからといって、それがそのまま市場の声にはならない。特に個人事業主は顔の見える人間関係の中でビジネスをしている分、この罠にはまりやすいと感じています。


失敗③ 「あったら便利」はほぼ売れない

3つ目の失敗は、バーニングニーズを見極められていなかったことです。

後からそのお客さんが話を聞いたところ、彼が作ったプロダクトは「その部署の担当者からしたら便利なのかな」という印象だったといいます。「なくてはならない」ではなく、「あったらいいな」程度のものだったわけです。

ここで重要な概念が「Nice to have」と「Must to have」の違いです。

  • Nice to have:あったら便利、欲しいけどなくてもなんとかなる
  • Must to have(バーニングニーズ):ないと困る、ないと業務が回らない、今まさに燃えている課題

バーニングニーズとは、まさに「今も火がついている状態のニーズ」のことです。代替手段で頑張って解決しようとしているのに、それでもペインが解消できていない状態。この状態にある顧客は、お金を払ってでも解決したいと思っています。

反対に「Nice to have」のニーズは、よほど安価でなければほとんど売れません。「便利そう」というだけでは、人は行動を変えません。

バーニングニーズかどうかを見極める方法は2つあります。

1つ目は、その課題が社会的・業界的に広く認識されていることです。誰も困っていないことには、誰もお金を払わないからです。

2つ目は、その課題に対してすでにお金が動いていることです。何らかのソリューションにお金を払っている顧客が存在するということは、そのニーズが「現実の痛み」として認識されている証拠です。

この2つの条件が揃っているとき、バーニングニーズである確率は非常に高くなります。今回のケースでは、パワポで「欲しい」と言ってもらえたという点では「課題の認識」は一定程度あったかもしれない。しかし、他の手段(汎用AI)で頑張れば代替できる程度のものだったという事実が、バーニングニーズではなかったことを示しています。


失敗④ 転換コストを甘く見た

4つ目の失敗は、転換コストの見誤りです。これは特にBtoBでよく発生する見落としですが、BtoCでも同様に起きます。

転換コストというのは、新しいプロダクトに乗り換えるためにかかるコストの総体です。単に「新しいサービスの費用」だけを指すのではありません。社内の社員たちに新しいツールを周知させる時間や手間、管理部の責任者を説得するための労力、既存の業務フローを変更するコスト——これらすべてを含みます。この転換コストは、思った以上にバカにできないものです。

今回のケースでは、彼が半年後に話を持っていったとき、ちょうど汎用AIが普及していました。「最初に欲しい」と言っていた経営者たちは、すでに社内に汎用AIを導入していたのです。彼が解決しようとしていた業務効率化は、頑張れば汎用AIでもある程度対応できるものでした。その結果、「汎用AIにある程度慣れた社員たちを、また新しいSaaSに転換させる」というコストが重くのしかかり、誰も導入に踏み切れなかったのです。

新しいものを売るためには、必ず何かをリプレイスさせる必要があります。そのリプレイスを起こすには、「転換コストを上回るだけの価値」を提供しなければなりません。

だからこそ、転換コストをできるだけ低く設計することが重要です。コアの価値は新しくても、インターフェースや操作感は顧客が慣れ親しんだものに寄せる。既存のツールと連携できるようにする。導入・移行をできる限りシンプルにする。こういった配慮が、実際の購買行動を動かすのです。

4つの失敗、どれか一つでも心当たりがあった方は、一人で抱え込まず、自分の商品やサービスに当てはめて一緒に整理してみましょう。


まとめ:「売れる商品」は市場検証から始まる

4つの失敗を振り返ると、すべてに共通しているのは「本物のニーズ検証をせずに進んだ」ことです。

  • 失敗①:パワポへの感想をニーズと勘違いした
  • 失敗②:コネのある相手に本音が聞けない状態でニーズ調査をした
  • 失敗③:バーニングニーズではなかった(「Nice to have」止まりだった)
  • 失敗④:転換コストを見誤った

中小企業庁の統計データによれば、個人事業主が起業から1年経過後に存続している割合は62.3%、3年後まで生き残っている割合は約37.6%とされています。

10人が起業すれば3年後には6人以上がいなくなる計算です。その大きな原因の一つが、まさに「市場に本当のニーズがあるか」の検証を怠ったことにあります。

商品を作る前に確認すべきことは、シンプルに2つです。

① その課題にすでにお金が動いているか? 誰かが何らかの形でお金を払って解決しようとしている課題かどうか。これが「バーニングニーズ」の最も確かなサインです。

② 自分のことを知らない人に実物を見せて「欲しい」と言われるか? パワポでも知人でもなく、全く面識のない見込み客に実物を見せて反応を確かめる。これが本物の市場検証です。

そして商品を設計するときは、転換コストを意識してください。いくら価値が高くても、乗り換えるのが面倒だと思われたら買ってもらえません。「どうすれば乗り換えのハードルを下げられるか」を最初から設計に組み込む。これが、売れる商品を作るための実践的な思考です。

個人事業主として売れない壁にぶつかっているとしたら、まず商品の品質より前に、このニーズ検証と転換コストの設計を見直してみてください。売れない本当の理由が、そこに隠れているかもしれません。

売れない理由を商品の質のせいにする前に、ニーズ検証と転換コストの設計を、一緒に見直していきましょう。

更新日: 2026-06-26

寺尾講平
寺尾講平

人材派遣・住宅設備(マイセット)・空間プロデュース会社UDS・島原観光ビューロー・コラビットと、マーケ担当不在の現場を渡り歩いてきた実務家。26歳でホームページ制作で独立し15年以上Web制作に従事。教育施設の立ち上げでは半年で受講生100人達成、島原観光ビューローでは観光情報発信サイトのディレクションや集客コンテンツを手がけ13年続いた観光コンテンツ(累計経済効果2億円超)を立ち上げ、コラビットには一人目マーケターとして入社し広告CPA65%削減・記事200本以上作成、その後マーケティングマネージャーとして年間数億円規模の予算を管理。現在は屋号デジマタクトでホームページ制作を入口に、AIを活用したマーケティングの仕組みごと提供し、中小企業の担当者1名でも運用できる体制づくりを支援。

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