はじめに
商品やサービスをリリースする前に、できれば誰もが避けて通れないステップがあります。それは「実際にお客さんになりそうな人に、率直に聞いてみる」というニーズ検証です。当たり前に聞こえるかもしれませんが、僕はこれを一度もやらずに、300万円以上を投じた事業を、1個も売れないまま畳んだ経験があります。この記事では、その大失敗と、そこから今のバランスにたどり着くまでの話を、できるだけそのまま書いてみます。
ニーズ検証とは?なぜ商品リリース前に欠かせないのか?
マーケティングの世界には、「作ったものと、お客さんが本当に欲しいものが噛み合っているか」を確認する、プロダクトマーケットフィットという考え方があります。ニーズ検証は、その一番手前にある、最初の仮説検証です。「これなら欲しいと思ってもらえるはず」という自分の仮説が、実際にお金を払う人の感覚と本当に一致しているかどうかを、リリースする前に確かめる――それだけのことです。
言葉にすると、当たり前のことのように感じます。でも「いいものを作れば、わかってくれる人がきっといる」と思い込んでしまう瞬間が、誰にでもあるのではないでしょうか。僕自身、まさにそうでした。
15年ほど前、僕は「タビマナビ」という、小学生向けの通信教育サービスを立ち上げました。月額1,500円ほどで、毎月特定の都道府県をピックアップし、その県の特産品や読み物コンテンツを、進研ゼミのような形式で家庭に届けるという企画です。
僕の両親は2人とも高校教師で、「教育とは何か」が家庭の日常会話でした。偏差値偏重の社会への反発から、「小学生のうちは、点数では測れない教養を育む方が、大人になってからの人生が豊かになるはずだ」という仮説を、本気で信じていました。
なぜ「コンセプトへの共感」だけで、僕は安心してしまったのか?
その仮説に、お金も時間も全部つぎ込みました。カリキュラム開発、キャラクター開発、読み物コンテンツの制作、印刷――気づけば300〜400万円を投下していました。
でも、ここで一番伝えたいのは「いくら使ったか」ではありません。この間、僕は一度も、保護者(実際にお金を払うであろう人)の意見を聞いていなかったということです。教育を届けたい子どもにすら、教材を読ませたことがありませんでした。
完成間際になって、「やっぱりこれ、違うかもしれない」と僕自身の気分で方針転換とリリース延期を決めました。これも、ユーザーの声がきっかけではありません。自分の中の不安だけが理由でした。
それでも、最終盤に知人の保護者へコンセプトをぶつけてみました。返ってきた言葉は「コンセプトへの共感はします」「応援してます」。でも、「うちが欲しい」とは、一言も言われませんでした。
なのに僕は、その言葉を聞いて、なぜか安心してリリースしてしまったんです。
結果は、1個も売れませんでした。完全な「大爆死」です。
何が構造的にダメだったのかも、当時の僕には全くわかっていませんでした。
その後マーケターになり当時を冷静に構造的に振り返ることができるようになり、「なんで、あの時、たった一言『欲しいですか?』って聞かなかったんだろう」――そのシンプルな問いが、時間が経つほど重く響くようになりました。
時間が取り戻せるなら、もうあんな失敗は絶対にしない。今でも本気でそう思っています。
じゃあ、何を・どうやって検証すればよかったのか?
今振り返ると、最大の問題は「そもそもニーズが存在しないものを作っていた」ことでした。
ニーズ検証の方法に、特別な正解はありません。マーケティングの現場でよく使われるのは、インタビューのような定性調査と、アンケートのような定量調査を組み合わせるやり方です。ただ、個人や小さな会社で何かを始めるときは、最初から大規模なアンケートを設計する必要はないと僕は思っています。優先すべきは、まず数人でいいので「直接話を聞く」ことです。実際に困っている人が使う言葉そのものに、仮説を磨くためのヒントが詰まっています。さらに企画段階であれば、SNSで関連するキーワードを検索して、すでに同じ悩みを発信している人がどれくらいいるか、どんな言葉で表現しているかを覗いてみるだけでも、十分な手がかりになります。
当時の僕に、これができていたら――。たとえば、こんな違いが生まれていたはずです。
| タビマナビ(当時) | 今ならこうする | |
|---|---|---|
| ユーザーの声 | 開発中は一度も聞かず、完成間際にようやく1人にぶつけた | 企画段階で複数の保護者にインタビュー・アンケートを行う |
| 反応の受け止め方 | 「共感する」「応援してます」を「売れる」と同じ意味で捉えた | 「実際にお金を払うか」「今すぐ欲しいか」まで踏み込んで確認する |
| 投資の配分 | キャラクター・コンテンツ・印刷に300〜400万円を先行投資 | 小さく試作・検証してから、段階的に投資額を増やす |
| 集客・チャネル | ホームページを自作し、無料プレスリリースのみ。あとは「待つ」だけ | LPや小規模広告、SNSなど、検証段階から集客の仮説も持っておく |

加えて、後から自らは親になって気づいたことですが、保護者層にとって、月2,000〜3,000円という「効果が見えにくい教養」への支払いは、ハードルが高いものです。もし500〜1,000円程度の、遊びながら学べるカルタのような商品だったら、もう少し違う結果になっていたかもしれません。差別化自体はできていたんです。ただ、「市場がないから、誰もやっていなかっただけ」だった、ということに、ようやく気づきました。
あなたの企画にも、こんな「危険な兆候」はありませんか?
タビマナビでの失敗を振り返ると、ニーズ検証を後回しにしてしまう人には、いくつか共通する「危険な兆候」があるように思います。今、何かを企画している最中なら、一度チェックしてみてください。
「いいものを作れば、わかってくれる人がきっといる」と思っている 当時の僕は、まさにこの思い込みからスタートしていました。コンセプトへの自信が強いほど、この感覚も強くなりがちです。
企画を進めている間、想定ユーザーに一度も話を聞いていない タビマナビでは、保護者(実際にお金を払う人)に意見を聞いたことは、開発中一度もありませんでした。届けたい相手である子どもにすら、教材を見せていませんでした。
「いいですね」「応援してます」を、「売れる」のサインだと思っている 完成間際に聞けたのは「コンセプトへの共感はします」「応援してます」という言葉だけでした。「うちが欲しい」とは、誰からも言われていませんでした。それでも、なぜか安心してしまったんです。
方針転換やリリースの判断を、ユーザーの声ではなく自分の感覚だけで決めている 当時の方針転換も延期も、きっかけはすべて僕自身の不安でした。
ニーズ検証を「最後の確認」として、完成間際に予定している タビマナビでも、ユーザーに聞いたのは最終盤にたった1回だけでした。

1つでも当てはまるものがあれば、本格的に投資を進める前に、前章で紹介したような小さな検証を、今すぐ試してみることをおすすめします。
よくある質問
Q1. ニーズ検証に、お金や時間をかける余裕がありません。それでもやるべきですか?
はい。むしろお金や時間がないからこそ、検証が重要です。SNSでのハッシュタグ検索や、知人へのヒアリングだけでも、何もしないよりはるかに多くの手がかりが得られます。タビマナビの場合、お金のかからない「保護者に話を聞く」ことすら、開発中は一度もしていませんでした。
Q2. 「いいですね」「欲しいです」と言われたら、もう安心していいですか?
僕の経験からは、「いいですね」「共感します」と「実際にお金を払って、今すぐ欲しい」は、まったく別の言葉だと思っています。聞くときは、「お金を払いますか?」「いつ欲しいですか?」というところまで、もう一歩踏み込んで聞いてみることをおすすめします。
Q3. 検証した結果、「ニーズがない」とわかったら、企画はやめるべきですか?
企画そのものをやめる必要はなく、「誰に」「どんな形で」届けるかを変える、という選択肢もあります。タビマナビも、価格帯やフォーマットを変えていれば、違う結果があったかもしれないと今は思っています。「ニーズがない」という結果も、立派な一次情報です。
Q4. 一人で事業をやっていて、ヒアリングする相手もいません。どうすればいいですか?
知人・友人・SNSのフォロワーなど、身近な人で構いません。大事なのは「人数」より、「お金を払うか」まで聞けるかどうかです。もし身近に聞ける相手がいない、という状況自体に悩んでいるなら、それも含めて一緒に考えられることだと思っています。
まとめ
ニーズ検証は、特別な手法やツールがなくても始められます。大事なのは、「欲しいかどうか」を、ちゃんと聞くことだけです。
もしこの記事を読んで、「これは自分のことかもしれない」と感じた方がいたら、まずは身近な一人に、率直に聞いてみることから始めてみてください。

個人事業主(ソロプレナー)の「売上が伸びない」「発信が続かない」を、AIとコンテンツマーケティングで解決する専門家。大手企業のオウンドメディア立ち上げ・コンテンツマーケティング支援を皮切りに、事業会社のマーケティング責任者として年間2億円規模のマーケティング予算を統括。自らも週2本ペースで2年間、200〜300本の記事を執筆し、記事制作のディレクションも担いながらコンテンツマーケティングを現場で回し続けてきた。広告だけに頼らない仕組みづくりを志向し、コンテンツマーケティングとの掛け合わせで3年間で事業売上約20倍の成長を牽引。BtoB(SaaS)領域では広告費に依存しないリード獲得スキームを構築し、MRR1,000万円超を達成。事業主として7つの新規事業立ち上げ・会社経営を経験しており、職業マーケターとしての実務経験と両方を持つのが最大の強み。個人事業主が単価の壁で頼れなかったプロのマーケティング支援を、AIを武器に届けている。

